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デジタルコンテンツを活用した分かる授業、考える授業の設計

鳴門教育大学・益子典文

1.授業設計とデジタルコンテンツ(※注1)

 これまで,学校に導入されるコンピュータ・インターネットは,児童生徒が自らの学習を促進する道具として利用することを前提としてきた。情報の受信/発信の主体は学習者であり,教師の役割はそのような児童生徒の学習をいかに促進するかに注がれてきたのである。コンピュータ・インターネットを活用して,児童生徒のコンピュータリテラシーを育成するという観点から,この考え方は今後も学校でのコンピュータ・インターネットの活用の基盤になければならないだろう。

 しかし,各教科の授業において,コンピュータやインターネットを「教師が」活用することにより,より児童生徒が「わかる」,より児童生徒が「考える」授業を実現するためには,私は教師が主体となって授業を設計する必要があると思う。授業の中で子どもたちと丁々発止のやりとりをすることこそ,教職の醍醐味というものではなかろうか。そのためには,教師自身のコンピュータリテラシーが高いにこしたことはないが,それが重要な要件ではない。通常の授業設計活動を基盤としながら,新しい観点からの教材研究の道具として,そして,児童生徒の教科の学習を現在よりも,さらに効果的かつ質的に高める道具として,コンピュータやインターネットを活用する方法が必要だと思うのである。

 これから本稿で述べるのは,@普通教室で,A教師がデジタルコンテンツやプレゼンテーションソフトを利用し,B子どもたちと相互にやりとりしながら進める授業を設計するための一つの方法である。

※注1 「デジタルコンテンツ」の正確な定義はないが,ここでは授業で利用するデジタルコンテンツ=デジタル化された教材,と考えて論を進める。すなわち,データとして見た場合,次に述べるマルチメディアの性質を持つデータである。

2.授業設計における提示情報の重要性

 授業は,教師の「教授過程(教師が学習内容を伝える過程)」と学習者の「学習過程(子どもが学習内容を学ぶ過程)」との相互作用によって成立している。したがって,学習目標を達成するために教師が授業を設計するには,「学習過程」の様相をあらかじめ予測し,「教授過程」を事前に組み立てておく必要がある。

 授業における教材(※注2)の構成要素を「情報」という極めて抽象的な概念で表現するならば、教授過程の設計のためには,@どのような情報を,Aどのような順序で学習者に提示するのか,ということが,極めて重要な課題となる。というのも,近年,マルチメディア(※注3)のデータをインターネットを利用して検索・利用することだけではなく,デジタルカメラ,デジタルビデオなどを活用し,さまざまなデータを個人レベルで作成/加工することが可能となってきたからである。そしてこのことは,教授過程で活用する,文字,音声,画像,動画などをさまざまな手法でアレンジしながら,より質の高い学習過程を保証する教材を開発することが,個々の教師レベルで可能となったことを意味するからである。

 より質の高い学習を成立させるための提示情報の内容および順序構造に関する研究は,教材の系列化(シーケシング)研究として,1960年代より研究されてきている。例えば,Ausubelの先行オーガナイザーや,ルレッグ法などである。

 現在では,学習者の理解や思考などの内面的な認知活動,あるいは興味・関心・態度などの情意面が学習目標として重視されるため,行動主義的な枠組みで考えられたこれらの理論の重要性を指摘する人はあまり多くない。しかし私は,これらの理論が志向していた方法論や考え方は,実際面で有用と考えるのである。特に,学習者の学習過程をあらかじめ想定しながら教授過程を設計(プログラミング)する,という考え方は,学習者の主体性を重視するという現在の考え方とは,一見かけ離れているように思えるが,そうではない。もしも学習者の主体性が重要なのであれば,学習者の主体的行動を学習目標に設定し,きちんと授業設計をすればよいからである。次に,これらの方法論や考え方に基づいて,デジタルコンテンツを活用した授業設計の方法を考える。

※注2 「教材」という言葉には,例えば英語ではsubject matter(教育内容そのもの),teachingmaterials(教育内容を具象化したもの乃至教育効果を高めるための有体物),resources(前述の2つの意味に加え,人的資源も含めた教育に関わるものすべて)等がある。本論文では教育研究では最も一般的なsubject matterという意味で用いる。

※注3  文字,音声,動画など,質的に異なる情報をデジタル化することにより統合化したメディアのこと。デジタル化されているが故に,加工が可能であり,劣化しない。反面,無限に劣化しない複写が可能であり,情報倫理が問題となる。デジタルコンテンツも同じ性質を持つ。

3.授業の流れと学習目標の設定

 教材の系列化研究で重視された学習目標は,いわゆる「行動目標」であった。「行動目標」の考え方は,行動主義心理学的な枠組みによるものであり,現在の学習の考え方からすると,単純な刺激の繰り返しによって行動を形成しようとする教授過程の設計思想はよくないという捉え方がある。しかし,行動目標の考え方で重要なことは,ある構成概念が学習者に形成された場合,それがどのような行動を伴って観察されうるか,という点であり,「実際に観察される行動」を重視する考え方は,授業設計において十分に有用と考えられる。授業の目標を大まかに認知面と情意面という2つの側面から捉えたとき,この両者に設定された目標が達成されたとするならば,学習者はどのような行動を示すようになるのか(教師が教授過程を設計するときの立場に立てば「どのような反応を起こしたいのか」),をじっくりと考えて目標分析を行い,質の高い提示情報を選択することが,教材開発の第一歩と考えるのである。

(1)授業の進行と学習者の情意面の変化

 まず,情意面について考えてみよう。

 北尾によれば,学習の入門期には,前提的・基礎的な観点が強調された情報を学習者に与え,興味・関心を喚起することが重要な目標となる。子どもの身近な題材を与えてちょっとだけ考えさせるような状況がこれにあたるだろう。この段階の具体的な行動目標を考えてみよう。興味・関心を持った学習者は,教師が与えた情報に注意を向けるようになったり,驚いたり,あるいはもっと浅く,単に「気づく」だけでよいかもしれない。とにかく,学習者が「あれっ?」と思っていることが,外的にわかる行動が重要である。

 次の段階では,「学習意欲」を喚起する必要がある,教職経験者なら分かると思うが,この段階では,提示する情報に,発展的な観点の情報が加味される(つまり学習内容がやや深くなる)。もっとくだけた言い方をすれば,適切な教師のガイドを交えながら,難しい課題に取り組ませ「やってみたい」気持ちにさせることが必要になる。学習意欲が喚起された学習者は,どのような行動を取るだろうか。例えば授業時間が終わっても学習活動をやめなかったり(自ら進んでやろうとする),最後まで作業をすることの達成感を感じることができるようになる。長時間の学習活動を苦にしなくなり,むしろやりとげ,それを楽しむという傾向が見られる。

 さらに一歩進めた「態度形成」に至ると,さらに発展的な観点の情報が増し,学習内容は一層深まる。そして,学習者はそのような深まりのある学習に対し,ある傾向を持った反応を示すようになる。1時間目から「先生,あれをやろうよ」と積極的に提案してきたり,教師の指示がなくてもあっという間に活動の準備が整ったり,ある特定の時間が待ち遠しくてワクワクしたりするはずだ。楽しむだけではなく,活動自体に「価値」を認めるようになるのである。「個性化」の段階では,さらに深まりを見せる学習内容と自分自身との関わりを考えることができるようになる。学習してきた内容の本質に触れることにより,自分自身の適性にどのように合っているのか(あるいは合わせることができるのか),「この内容は・・・のようなものだ」など,達観した考えを持つことができることを意味している。

 ここで重要なのは,情意面の目標が学習の進行とともに変化し,その目標を達成するために,教師が準備すべき提示情報の内容は,学習者に望まれる行動に合わせて質的に変化するということである。

図1 情意面の階層性と学習の進行

(2)授業の進行と認知面の変容の促進

 具体的な授業の学習目標では「・・・力がつく」ことがよくかかげられるが,「・・・力」の実態は情意面ではなく認知面の発達によるのである。偏見かもしれないが,教科の学習では,実質上,情意面よりも認知面の目標の方が重要であると思われる。

 ここでは,先に述べたルレッグ法について見てみよう。ルレッグ法とはEvans,Homme,Glaserらによって開発された教材開発の方法である。彼らは,教師と学習者の間のやりとりは「ルール(ruと表記)」および「事例(egと表記)」の二種類の組み合わせから構成されていると考えた。ここで「ルール」とは,何らかの定義,数学の公式,経験法則,原理,公理,前提条件,仮説,などを指すが,そこに何らかの例を割りあてることができる,一般性を持った記述であることが重要である。そして「事例」とは,物理的事象の記述,定理あるいは演繹的結論,特定のものの間の関係,などを指すが,より一般的な「ルール」から導出されるものであることが重要である。

 彼らの論文では,ルレッグ法を基盤とする学習プログラムの開発手順を詳細に報告しているが,ここでは,彼らがルールと事例の組み合わせ(組み合わせて表現した情報のひとかたまりをプログラム学習の慣習に沿って「フレーム」と呼んでいる)の教育効果について,いくつか例をあげながら図2に示す。

 ここで重要なのは,このように,「ルール」と「事例」という2つの情報に区分しただけで,多様な教授過程の設計ができ,しかも,学習初期,中期,後期にそれぞれ適した配置があるという点である。


@ru+eg+〜eg : このタイプのフレームは,新しいルールの学習初期に与えられるものである。

明示的なルールを学習者に与え,さらに〜eg(不完全 な事例:「〜」は不完全な情報を表す)で学習者の反応を促す前に注意深く選ばれたegを与える。「植物は二酸化炭素と水を使ってでんぷんを作っている」というルールを与え,じゃがいもがそのような植物の例であることを提示した後に,「じゃがいもは(   )と(   )からでんぷんを作っています」という不完全な事例を与えて完成させる,という提示情報のまとまりがこのフレームの例である。

Aru+〜ru : ルールは典型的に専門用語を伴っている。統計学における「母集団」,天文学における「近地点」などは,学習者にとっては新しい用語であるため,このような用語に注意を促すためにこのフレームが役立つ。授業で言えば,教師がわざと「・・・は何と言ったかなあ」と学習者に発問する場面を考えることができるだろう。

Bru+〜eg : 学習後半において用いられるフレームである。徐々にサポートが必要なくなってくる状態では,〜egの前にruを提示するだけでよい。

Ceg+〜ru : すでに学習者が何らかのルールを知っている状態で用いられる帰納的なフレーム。

D〜ru1+〜ru2 : 二つの異なるルールを不完全な状態で提示・比較し,対照するために用いられる。これは容易に3つ,4つの系列へと拡張できる。

E〜eg1+〜eg2 : 二つの異なるルールに対応する事例を比較,対照する。あるいは,二つのルールがどのように応用できるかを演示する。Dと同様,容易に3つ,4つの系列へと拡張できる。

F−eg : これは"誤った例(false example)"である。ルールの学習を終えれば,誤りを検出し,修正することができる。そのような誤りを検出する行動を適切に遂行できるように練習するフレームを構成するためのものである。例えば,先の光合成の事例では,光合成をしない生物で,しかも学習者が誤りやすい事例を選択し,何が間違っているのか,学習者に説明させる発問を考えることができる。

図2 ルレッグ法によるフレームの構成例(Evans et.al., 1962)


(3)まとめ(Evans et.al., 1962)

 学習者の認知面,情意面が学習の進行とともに変容し,さらに授業では,その変容に合わせた情報を提示することの重要性を述べた。実際の授業では,Evansらの分析は細かすぎるように思えるので(繰り返すが,分類や考え方は現在の授業設計においても十分に役立つものである),ここまでに述べた内容で,想定される授業の流れをおおまかにまとめてみよう。

@授業初期には,比較的わかりやすい事例を提示する。この事例は,わかりやすい一方で,その後の授業での発展性の高いものが望ましい

A授業中期には,「複数の事例からルールを導出する」(帰納的な情報提示),「ルールを使って事例を説明する」(演繹的な情報提示),「ルールと他のルールを比較検討する」(ルールの価値を学習する),「ルールの適用の誤り事例を修正する」,などを課題とする情報を提示し,しかも学習の進行に伴ってより深まり・広がりを持つように学習を進める。

B授業後期には,ルールに対する価値観形成,個性化などを目ざし,社会の中でのルールの役割や,学問体系の中でのルールの価値などを考えることができる事例,および他のルールの価値との比較などを行う。

ここでまとめたのは,私流のおおまかな授業の流れであることに注意していただきたい。しかし,これらの内容が,提示する情報を選択したり,配置したりする際の,一つの考え方であると理解して差し支えないと思う。

4.デジタルコンテンツを活用した授業設計のポイント

 先に述べた学習者の情意面,認知面の順序構造を考慮することは,提示情報と達成すべき目標との関連を述べたものであった。

 一方,授業では,単に情報を提示するだけではなく,発問や評価(KR情報(※注4))など,教師の柔軟な働きかけや,グループ作業や話し合いなど,学習者が行う学習活動があってこそ成立する側面が大きい。したがって,前節で述べた内容をさらにアレンジすることが可能になる。デジタルコンテンツを利用するのであれば,ただ単に「わかりやすい情報を提示する」よりも,学習者の学習活動をいかに活性化させるかが,ポイントだと思われる。そして,私自身は現在,そのポイントは,デジタルコンテンツのメディア特性と,デジタルコンテンツの活用を前提とした発問による学習活動の活性化であると考えている。

※注4 けー・あーるじょうほう。Knowledge of Resultsの頭文字をとったもの。「よく頑張ったね」など,日頃のことばがけも,広い意味では評価した結果を学習者に返すことになるから,KR情報に含まれる。

 次に,これらについて述べる。

(1)デジタルコンテンツのメディア特性

 学習活動を活性化させるために,デジタルコンテンツならではの特徴,すなわちデジタルコンテンツのメディア特性を考慮する必要がある。このような特性を列挙することの妥当性はないが,次に,デジタルコンテンツを教材の素材と考えた場合,有用と思われるいくつかの特徴を考えてみよう。

@「即理解性」:これは,「目で見て分かる」「耳で聞いて分かる」という特徴である。映像や動画,音声は,文字情報と比較すると極めて具体性高いものであるため,分かりやすく,しかも複数の学習者が即座に同じ「意味」を読みとることができる。

A「データ即時性」:ネットワーク上のデジタルコンテンツには,「今」を発信しているものがある。卑近な例で言えば,天気・温度などである。その他にも,社会科で,日本各地のライブカメラの映像を提示したり,定点観測している動物や植物の「今」を提示することができる。

B「即加工性」:学習者とやりとりをしながら,提示しているデータを,目の前で自由に加工することができる。例えば,算数・数学で,式や図形を提示しながら「ここの部分をどう変化させようか」と発問することによって,様々な傾向を観察することができるのである。

C「蓄積性」:例えば,気象衛星ひまわりが送信してくる画像のように,インターネット上には,多くのデータがアーカイブされ,公開されている。過去にさかのぼり,時系列データを加工したり,あるいは英語の著名な演説を聴いたりすることが可能となる。  このようなメディアの特性を活用するためには,次に述べるような教師と学習者の間で,特性を活かした相互作用を実現する必要がある。

(2)メディアの利用における教師と学習者の相C「蓄積性」:例えば,気象衛星ひまわりが送信してくる画像のように,インターネット上には,多くのデータがアーカイブされ,公開されている。過去にさかのぼり,時系列データを加工したり,あるいは英語の著名な演説を聴いたりすることが可能となる。

 このようなメディアの特性を活用するためには,次に述べるような教師と学習者の間で,特性を活かした相互作用を実現する必要がある。互作用(ineraction)

 1998年9月,米国 Educational Testing Service(http://www.ets.org/)は,教科学習においてコンピュータが有効かどうかを検証するため,米国で実施されている大規模な学力調査であるNAEP(National Assessment of Educational progress : http://nces.ed.gov/nationsreportcard/)数学の1996年度テスト成績と,そのテストを実施した学校内の教師や学習環境におけるコンピュータの状況を合わせて調査した結果を「Does It Compute ? --The Relationship Between Educational Technology and Student Achievement in Mathematics--」(http://www.ets.org/research/pic/pir.html よりダウンロード可能)として発表した。(ineraction)

 調査の結果自体は「コンピュータは数学学習に有効である。ただし,使い方による。」というものであり,さほど驚くほどのことでもないが,この報告書の第1章にはコンピュータの有効性をめぐる先行研究のサーマリーが述べられている。その部分が非常に,興味深い内容となっている。

 コンピュータが有効であると主張する研究と,有効性が低いと主張する研究,双方のサーマリーを行っているのであるが,特に「コンピュータは教科の学習にとって有効性が低い」と主張する研究のサーマリーが興味深い。テクノロジーによる教育改革の歴史を見ると,例えば,16ミリフィルムは,昼食直後に利用されるケース,つまり教師が学習者との相互作用を望まない時間帯に利用されることが多いという。一方,黒板,OHP(※注5)などは,教師と学習者の相互作用を阻害するものではない。だから,現在でも利用されているが,コンピュータは一般に教師と学習者の相互作用を阻害するから,教師は教室で利用されない,と主張する。この見方は,一面で当たっていると思う(ただし,教師が学習者との相互作用を望まないのではなく,相互作用を試みても,学習者の反応が低いと判断される場合に,である)。

 それでは,相互作用とは具体的にどのようなものだろうか。次に,授業における相互作用の位置づけを明確にしてみよう。授業を「システム(※注6)」として捉えると,次のようになると言われている(坂元,1991)。

※注5 Over Head Projectorの頭文字を取ったもの。これを和訳すると「頭越し投影機」となるが,それでは「誰の」頭越しだろうか。そう,「教師の」頭越し投影機である。だからこそ,OHPを利用すると,教師は学習者の反応を見ながら,対面形式で情報を提示できるのである。これは,私が助教授になったとき,中山和彦先生(元・筑波大学教授,現在・21世紀教育研究所所長)に「教育工学を担当するならこれぐらい知っておくように」と,伺った話である。

※注6 渡辺によれば,「システム」とは,次のような要件を満たすものを言う。@二つ以上の要素から成り立っている,A各要素は互いに定められた機能を果たす,B全体として目的を持っていなければならない,C単に状態として存在するだけではなく,時間的な流れを持っている(渡辺ほか,1988)。

図3 システムとしての授業の流れ

 図3の中で番号がついているものが授業の構成要素である。さらに,(1)から(7)の順序で授業が進むことを意味している。教師がなんらかの教育目標・内容を情報処理することによって児童生徒に情報提示を行い,児童生徒はその情報を受け取って情報処理する。そして,情報処理した結果を教師に反応として返し,教師はその反応を教育目標・内容を参照することによって評価する。さらにその評価の結果を,KRとして児童生徒に再び返す。授業とは,このようなやりとりの流れを繰り返すシステムということになる。ここで「相互作用」とは,「教師から学習者へ:(2)から(3)の情報の流れ」,「学習者から教師へ:(5)から(6)の情報の流れ」,そして再び「教師から学習者へ:(7)の情報の流れ」,具体的にはこれらの双方向の情報の流れのことを指す。

 授業においてデジタルコンテンツを活用した教材を開発するのであれば,主に「教師から学習者へ:(2)から(3)の情報の流れ」において活用することになるだろう。したがって,学習者との相互作用の質と量を向上させるためには,@学習者が「情報受容」することによって,A学習者の「情報処理」がより活性化されるとともに,Bその情報処理の結果,より高次の「反応」が観察されることを目標とし,あらかじめ「情報提示」を行うコンテンツを準備する必要がある。そのためには,単にデジタルコンテンツを提示するだけではなく,学習者の情報処理および学習活動を効果的に活性化する発問も合わせて学習者に提示する必要があるだろう。

 ここまでの議論を,図4にまとめる。

図4 デジタルコンテンツを活用した授業における相互作用の活性化

(3)学習活動(※注7)と発問

 教師の発問の善し悪しは,授業における学習を左右する重要なファクターである。例えば,社会科で「楽市・楽座が考え出された歴史的背景を考えさせよう」と教師が思っているとしよう。しかしながら,「楽市・楽座の歴史的背景を考えなさい」という発問によって,学習者が指示通りに多様に考えてくれるとしたら,こんなにラクなことはない。考える,問題を解く,話し合う,判断する,などの高次の認知活動を伴う学習活動を授業で展開するならば,どのような発問を行うかが,授業の成否の決め手となると考えてもよいのである。特に,デジタルコンテンツによる情報提示の効果を最大限引き出す発問を考えることが,授業においてデジタルコンテンツを活用するための決め手になると考えてよい。

 デジタルコンテンツの特性が「目で見て分かる」「耳で聞いて分かる」等であることは,すでに述べた通りである。したがって,発問としては,このような特性を持つ情報を提示し,しかもその特性を活かして学習者との相互作用や学習活動をいかに活性化するか,という点にかかっている。次に,プロジェクターで教室前面に情報提示を行いながら,授業を展開する事例を述べる。事例によっては,著作権法上の問題から,提示情報をそのまま掲載できないものがあるため,WebページのURLを提示するにとどめる。

※注7 ここで「学習活動」とは学習の成立に向けて,授業の中で設定される諸活動のことを意味する。したがって,学習者が授業の中で教師の指示通りの活動を行うこと自体は学習目標の成立とは無関係である。

(4)具体例1;社会科・歴史的推測(※注8)

 さきほど発問の重要性について述べた箇所で例にあげたように,あなたが,楽市・楽座の歴史的背景を教えたいとしよう。通常の教材開発と同様,目標分析から考えてみよう。

@目標分析

 楽市・楽座を通して学ぶべきルールとは,経済(モノ,人,金の流れ)を豊かにすることが人々の生活を豊かにする,という事実であろう。さらに,歴史的にこのルールの価値を学ぶためには,応仁の乱で荒れ果てた地域の経済を,為政者である織田信長のリーダーシップにより立て直す政策として楽市・楽座が考え出されたことの見事さを知る必要があるだろう。

 この目標は,かなり高度なもののため,発問を段階的に構成し,児童の思考を深めていく必要がある。

Aデジタルコンテンツの選択と配置

 楽市・楽座の情景図を見せてその解説をするのも一つの方法であるが,資料をもとに考える,話し合うという学習活動を活性化させるため,1枚の資料をもとに,思考を深める発問を次々に提示する方法を用いる。そのためには,さまざまな意見を反映できる資料を提示することが望ましい。

 この授業では,人々が集う,楽市・楽座によって賑わう町の情景を提示する。例えば,洛中風俗図屏風(舟木本)の一部である次の図を提示する(直接掲載できないので,次の「東京国立博物館」のページを見てください)。

 http://www.tnm.go.jp/scripts/col/MOI1.idc?X=A11168&Y=C0021454&Z=S

B段階的な発問を考える

 それぞれの発問で話し合い活動を活性化し,さらに,授業の進行と同時に話し合う内容を深めていくため,同一の上記資料「洛中洛外図屏風」に対し,次のような段階的な発問を与える。

発問1・導入場面の発問:事実発見

 「面白いなあ,と感じることがらを,できるだけたくさんあげましょう。」

 この発問は,見ただけで分かる事実を発見することを促すものである。比較的容易な発問であり,グループ活動をしても多様な意見が得られるはずである。例えば,「お坊さんがいる」,「武士がいる」,「お坊さんは托鉢をしている」,「店にはいろいろな品物が置いてある」,「おしゃれな着物を着ている人と,力仕事をしている人がいる」などである。

発問2・同一資料に対して視点を深める発問:事象解釈

 「この町の人々の「くらし」の特徴はどのようなところに見られますか? できるだけ豊かな発想で推測してください。」

 この発問は,提示されている資料の解釈を促す発問である。多様な事実を発見した後に,それらの事実をもとに,にぎやかな町の様子から,この町ならではのくらしの特徴を解釈する発問である。やはり,グループ毎に話し合いをする学習活動を想定している。ここでは例えば,「お坊さん,武士,普通の町の人が一緒になっている」,「いろいろな店が揃っている商店街」,「自由に買い物ができる町」,「お金を持っている人が多い町」などである。

発問3・思考を深める発問:時代解釈

「最後に,この時代がどのような時代だったのか考えてみましょう。 この町の人々は楽しそうに行き来をしていますね。 しかし,ほんの少し前,この町では多くの戦いがあり,このように(ここで,応仁の乱の様子を補助資料として提示する)家は焼かれ,町は荒れ果てていました。なぜ戦いで荒れ果てた町が,とても短期間で,このように豊かな町に変化したのだと思いますか?。」

 資料から時代背景を考えることは大変困難な課題であるため,ここでは,応仁の乱によって荒れ果てた町の様子のを補助資料として提示し,極めて短期間で町が豊かになった理由を考えることを通して当初の学習目標であったルール(経済的な側面に着目した政策)を導出する。おそらく,グループでの話し合いをしても困難な課題であると思われるため,場合によっては複数のヒントを準備した方がよいかもしれない。

Cワークシートなどの準備

 先に述べたように,デジタルコンテンツを活用した授業では,教師と学習者の相互作用および学習活動が活性化される。そのため,学習者がノートを取る時間が相対的に減少する。したがって,適切なワークシートを準備しておくことが望ましい。

 この例の場合,3段階それぞれの発問と,回答欄などを準備しておくとよいと思われる。

※注8 この事例は,平成14年度鳴門教育大学大学院修了生・河野富男(授業教育コース・益子ゼミ:香川県教員)の研究をアレンジしたものである。

(5)具体例2;交響曲の鑑賞(※注9)

 「鑑賞」という認知活動は,問題を解くことが出来る,理解する,以上に抽象的な活動である。音楽科の交響曲の鑑賞では,作曲家に関する様々な知識を持っていると,同じ交響曲を鑑賞しても,その度合いは全く違うものになる。

 しかし,交響曲を「聞いてみたい」という学習意欲を喚起するには,作曲家に対する興味・関心を高め,そこから学習意欲の喚起の段階にまで情意面を高める必要がある。そこで,次のようなデジタルコンテンツを利用したクイズを作成する。

@目標分析

 ベートーベンの交響曲鑑賞の事前に,交響曲の鑑賞に対して学習意欲を持つため,作曲家に対する興味・関心を高め,同時に作曲家に対する知識を学ぶことができるようにする。

Aデジタルコンテンツの選択と配置

 学習者の興味・関心を高め,「鑑賞したい」という学習意欲を喚起するため,クイズ形式のプレゼンテーションを,インターネット上のデジタルコンテンツを収集し,加工することにより作成する。

 クイズは,「私は誰でしょう?」という一貫した発問で,ベートーベンが生まれてから亡くなるまでの流れで収集したデジタルコンテンツ(写真および音楽)を1枚ずつ提示する。途中で分かった学習者が出ても,答えを言わないようにし,興味・関心を高めるようにする。

B発問と提示資料

 次に,作成したプレゼンテーションの詳細を述べる。1枚提示する毎に「誰だか分かったかな?」などと発問し,自由に意見を発表させる。<>で括られている部分は各提示シートのヘッダーで,文字と画像が同じシートに配置されていると想定する。

1枚目:<1770年生まれ>「私は1770年,ボン(現在のドイツ)のこの家で生まれました。」

【画像】

http://homepage2.nifty.com/izmreise/Europe/Deutschland/Bonn/bonn.htm

2枚目:<13歳(1783年)>「これは私が13歳のときの肖像画です。この頃から本格的に作曲を始めたんですよ。」

【画像】http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/por/por.html

3枚目:<30歳(1800 年)>「30歳の頃,第一交響曲を書いた直後の私です。この頃から難聴がひどくなり,何人もの医者に,回復の見込みはないと診断され,遺書を書きました。」

【画像】http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/por/por.html

4枚目:<作品>「私が40歳のときの作品です。18歳の乙女に捧げた作品でした。ラブレターを届けましたが,ふられてしまいました・・・。」

【音】http://www.geocities.com/Paris/3486/ (乙女の祈り)

5枚目:<作品>「私が54歳のときの作品です。日本でもよく演奏されていますよね。聴覚の衰えは40代から増し,ほとんど耳は聞こえませんでした。」

【音】http://www.pon2.net/izumi/c03.htm  (第9交響曲・第4楽章,歓喜の歌)

6枚目:<ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン>1827年57歳没

【画像】

http://www5b.biglobe.ne.jp/~pst/douyou-syouka/11theme/beethove/beethove.htm (第9交響曲・第4楽章,歓喜の歌)

Cワークシートなどの準備

 この教材は,学習者が交響曲を聴きたい,という意欲を高めるのがねらいであるため,ワークシートやノートなどの筆記活動は行わずに,教師とのやりとりに集中させる方が効果的である。

※注9 この事例は,平成14年度鳴門教育大学大学院修了生・野元貴代美(音楽教育コース:福岡県教員)さんに教えて頂いたものを,アレンジしたものである。指導要領では,交響曲の鑑賞は中学校になるが,野元さんは,小学校で交響曲のすばらしさが分かるよう(しかも鑑賞した心情を図工の時間に絵に表現するところまで),様々な教材の工夫をされている。

(6)デジタルコンテンツ活用のポイントのまとめ

 ここまでの議論は,次のようにまとめることができよう。

「デジタルコンテンツ」+「発問」=> 相互作用増加,学習活動増加

 どのような場合でも,教師と学習者の間には,生きたやりとりが必要である。そのやりとりの数が増加することと,学習者の学習活動の質を高め,活性化するために,デジタルコンテンツを活用するということが,授業で活用するポイントである。

5.デジタルコンテンツを授業設計に活かす枠組み

 自分自身の授業においてデジタルコンテンツを活用しようと考えたとき,授業での活用を前提とした様々なデジタルコンテンツの整備が進められてきている。例えば「教育情報ナショナルセンター」(http://www.nicer.go.jp/)は,そのようなデジタルコンテンツを提供する最も整備されたサイトである。

 さらに,日々の授業において自分自身の授業スタイルに合った教材を開発するためには,インターネット上のコンテンツを学習目標に合わせて検索する必要がある。しかし,どのような枠組みでデジタルコンテンツを検索し,授業に活かすのか,その全体的な枠組みはまだ提案されていない。そこで,デジタルコンテンツを活用した教材開発の一つの考え方を図5(※注10)に示す。図5では,デジタルコンテンツを活用した教材開発ステップを大きく3つの成分に分け,それぞれのステップにおける具体例を示してある。

※注10 この枠組みは,熊本e-授業推進協議会・小学校部会の先生方との議論を整理したものである。

 それぞれの意味を次に述べる。

(1)「コンテンツの効果」

 この成分は,学習目標の分析を終えているが,まだ授業の展開は明確化されていない状態で,デジタルコンテンツを見たときに,「面白そう」「自分の授業で使えそう」と考えるものである。教材開発の経験がある方なら分かって頂けると思うが,この段階では授業もまだ曖昧なイメージとして頭の中にある段階であり,多くのデジタルコンテンツの中から,自分の授業スタイルに合ったデジタルコンテンツを選択するこの時期の判断は論理的なものではない。極めて直観的なものだと言える。

図5 デジタルコンテンツを活用した授業設計の枠組み

 次のものは,熊本e-授業推進協議会・小学校部会の先生方と議論している中で実際に提示された事例である。


■学習意欲を高める(興味・関心から学習活動を活発にする)

■思考・判断などの学習活動を活発にする

「気づきをたくさん出す」

「見えない学習内容を見えるように」

「体験できないことが体験できる」

■授業の設計

コンテンツを見ることによって授業のイメージが広がった

(学習目標をとらえなおした)

(2)「授業の中で活かす手だて」

 これは図の右側の円に相当する。

この成分は,選択したデジタルコンテンツを,実際の授業の中で活かす手だてを,「導入」「展開」「まとめ」などの時系列に沿って,学習者の反応や,デジタルコンテンツを提示しした際の学習活動を予測しながら,一歩一歩授業を具体化していくものである。このステップでは,一般にじっくりと熟慮的に考え,判断しているはずである。

 次のものは,先ほどと同様,熊本e-授業推進協議会・小学校部会の先生方と議論している中で実際に出てきた事例である。


■授業実施段階全般

 ・ワークシートを作成して目標を持った学習活動を展開する

 ・学習活動が明確になるよう,ノートの取り方を工夫した

■設計段階

 ・授業に直結するコンテンツが授業用のサイトに見つからないので,

  自分の考えに合ったコンテンツを検索した

 ・コンテンツをより活かすために,授業に合わせて加工した

 (プレゼンテーション用,配布資料用,難しい字句を変更,など)

■導入段階

 ・「まとめ」の段階でコンテンツを活かすため,導入段階で様々な気づ

  きをできるだけ多く発表する学習活動を行った

 ・児童生徒に自然な形で学習に入っていけるように,コンテンツの

  内容を利用してクイズを作成した

例えば,「授業の中で活かす手だて」を考えている中で,デジタルコンテンツの加工を行う,デジタルコンテンツを検索している中で,新しい授業の組み立てのアイデアが生まれる,など,「コンテンツの効果」「授業の中で活かす手だて」の2つの成分は,先生方が実際に授業づくりをするとき,どちらが先,というものではなく,実際は相互作用があるはずである。しかし,重要なことは,この2つの成分の交わりの部分があって「デジタルコンテンツを使った授業」が成立すると考える点である。

(3)「コンテンツのよさ・課題」

 授業で活用したデジタルコンテンツは,「楽市・楽座」の具体例で述べたように,発問や学習活動の展開を変更することにより,様々な学習効果を期待できるはずである。従って,実際に特定のデジタルコンテンツを活用した授業をしてみて,児童・生徒の反応はどうだったか,授業のしやすさはどうだったか,次に授業をするとしたらどのような点に注意するか,などを振り返り,さらに活用を図ることも重要である。いわば,授業を「評価」する活動である。

6.おわりに

 ここで述べた授業設計の一手法は「デジタルコンテンツ用」の特別なものではなく,論文の冒頭で述べたように,日常的な授業設計活動を基盤としながら,デジタルコンテンツを活用することによってさらに一層その効果を高めるためのものである。私自身の個人的な考え方であるが,デジタルコンテンツを先生方が自分自身のスタイルに合った形で活用することにより,新しい形の教材研究・授業設計が可能となり,先生方にとっても,新しい授業づくりをすることが可能となるはずである。

引用文献

Evans, J.L., Homme, L.E. and Glaser, R. The Ruleg System for the Construction of Programmed Verbal Learning Sequences. Journal of Educational Research, Vol.55, pp.513-518, 1962.

北尾倫彦「学習指導の心理学 考え方の理論と技術」有斐閣,1991

坂元昂「教育工学」放送大学教育振興会,放送大学教材52511-1-9111,1991

渡辺茂,須賀雅夫「新版 システム工学とは何か」NHKブックス No.551,NHK出版社,1988

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